前回掲載したセレウス菌と合わせて、黄色ブドウ球菌が9月に起きたお弁当の集団食中毒の原因菌とされています。
健康な人でも約20%~30%の人が黄色ブドウ球菌を保有していると言われており、誰でも他の人へ感染させてしまう危険性があります。
今回は前回の続きとなる黄色ブドウ球菌についてご紹介いたします。
黄色ブドウ球菌の特徴
黄色ブドウ球菌は自然界に広く分布しておりますが、人の体でも手指や鼻前庭、髪の毛、咽頭などの多くに常在している細菌です。特に傷口や化膿している部分に多くの菌が存在しています。なお、名前の由来は顕微鏡で見ると丸い菌がブドウの房のように集まっていることからこの名称がつけられました。
黄色ブドウ球菌による食中毒は、食品が黄色ブドウ球菌に汚染されていると菌が増殖する過程において「エンテロトキシン」と呼ばれる毒素を作り、その毒素を食品と一緒に食べることにより引き起こされます。黄色ブドウ球菌自体は熱に弱いため十分に加熱すれば死滅しますが、産生されたエンテロトキシンは熱に強く100℃で30分間の加熱でも無毒化されません。また、黄色ブドウ球菌は多少の塩分があっても増殖して毒素を作り出す特徴も持っています。
原因食品
黄色ブドウ球菌による食中毒の原因食品は様々ありますが、特におにぎり・弁当・寿司・サンドイッチなど調理従事者が素手で扱って作る食品が多く見受けられます。これは、手指にある傷口や化膿している部分から菌が付着し、食品中にて増殖・毒素を産生してしまう可能性が高いからではないかと考えられます。その他にはケーキなどの乳製品や和菓子なども挙げられます。
過去の事例を見ると、2000年(平成12年)に低脂肪乳などの加工食品を飲んだ方々が次々と吐き気や嘔吐を訴え、患者数13,420人に及ぶ戦後最大とも言われる集団食中毒が発生しています。この集団食中毒は、加工乳の原材料として使用された脱脂粉乳が黄色ブドウ球菌の産生するエンテロトキシンに汚染されていたことで引き起こされています。
症状
潜伏期間は1~5時間程度(平均3時間)と比較的短く、吐き気や嘔吐の主症状の他ほかに腹痛や下痢を伴うこともあります。まれに発熱などの症状も見られますが、基本的には軽症であることが多く1~3日以内に回復することがほとんどです。
予防・対策
黄色ブドウ球菌は人の体に多く常在し、人から食品や調理場へ持ち込まれることがほとんどです。また、増殖する過程において熱に強いエンテロトキシンを産生する菌でもあります。
以上を踏まえたうえで下記にポイントを記載します。
⑴手指を清潔にし、手袋やマスク・帽子などを着用する
調理前には手をよく洗い、消毒用アルコールで手指を清潔にしましょう。また、黄色ブドウ球菌は人の手指(特に傷口や化膿している部分)や鼻前庭、咽頭、髪の毛に常在していますので、使い捨ての手袋やマスク・帽子などを着用し、食品や調理器具への菌の付着を防ぎましょう。
⑵食材や調理後の食品の温度管理に注意する
黄色ブドウ球菌の至適増殖温度は30℃~37℃、エンテロトキシンが産生されるのは10℃~46℃と言われています。食材や調理後の食品は常温で放置せず、10℃以下で保存し菌が増えるのを防ぎましょう(10℃以下では菌の増殖が抑制されます)。また、加熱調理の際は食材の中心部を75℃以上で1分以上加熱するようにしましょう。
最後に
前回ご紹介したセレウス菌も黄色ブドウ球菌も、共に熱に強い毒素が影響して体に悪影響を及ぼし食中毒を引き起こします。
年末年始は飲食店や食品工場を中心に繁忙期を迎え、非常に忙しくなることが予想されますが、食中毒予防の3原則はもちろん、衛生意識を高く保ち、施設の調理能力を把握したうえでの無理のない受注や仕込みを行うことが食中毒予防に繋がります。
また、家庭においてもおせちなど、作り置きをする食品を取り扱う機会が増えるかと思われます。決して冬場だからと安心して常温で放置したりはせずに、冷蔵庫などの低温下で適切に保管を行うように注意しましょう。